2008年11月12日水曜日

フランク・ザッパ

 あなたはフランク・ザッパを知っていますか? たぶん知らないでしょう。
 ビートルズと同時期から活動し、93年に亡くなるまで60枚近いアルバムをリリースしたロック界、いや音楽界の巨人であります。
 デューク・エリントンは3分間芸術と呼ばれ、ジャズによるオーケストラ、ビッグバンドサウンドを確立しましたが、フランク・ザッパはロックバンドでオーケストラを再現した人。と言ってもいいでしょう。
 ジャズとロックとポップそして現代音楽を混在させ、そこに強烈なアイロニーをまぶした音楽性は唯一無二といっても良いものでした。
 なんていったってステージ上で×××を食ったことがあると噂され、プロジェクトXのナレーター(田口トモロヲ)がそれに憧れて×××を食ったとか、家を訪ねてきたボブ・ディランに「君は、今度ジョルジオ・モロダー風のテクノをやってみる気はないかい?」とか言ったとか言わないとか、そういう逸話が数多くあるくらい奇想天外な音楽性と伝説を持つ男だったのです。
 バンドの演奏力も随一で、奇才ならぬ鬼才には鬼才が集まるといいますか、集まってくるミュージシャンも皆一流でした。簡単に名前を挙げてみると、後にリトル・フィートを結成するローウェル・ジョージ、ロイ・エストラーダ。ギターならスティーブ・ヴァイ、エイドリアン・ブリュー、ウォーレン・ククルロ……。キーボードならジョージ・デューク、エディ・ジョブソン。ドラマーならエインズレー・ダンバー、チェスター・トンプソン、テリー・ボジオ、ヴィニー・カリウタ、チャド・ワッカーマン……と言った知っている人なら誰もがうなずく、超がつくほどの一流揃いのメンツ。そしてザッパは93年に肺ガンで亡くなるまで、ドゥーワップとカントリーとポップスを背景とした曲を作る一方(大体どこかが変なのですが)、彼らの超絶技巧さを試すような難曲も数多く作り上げていきます。そして最後には人間を使うのをやめ、音楽界のフェラーリこと、シンクラヴィアを使った打ち込みによるコンピューターミュージックにも没頭していくのです。
 
 日本で奇人扱いされたのは先述された下品な話と、形容しがたい音楽性と邦題のせいな気がします。「The Man From The Utopia」(ユートピアから来た男)が何故か邦題が「ハエハエカカカザッパッパ」になっていたり、今、手元にある「Broadway The Hardway」の日本版なんて帯に「無労奴飢え、いざ張るど右営上へ(ぶろうどうえ、いざはるどうえいうえへ)」なんて書いてあるんですよ? なんじゃこりゃーと言わざるを得ません。ちなみに肝心の中身は音楽性も歌詞の政治批判も含めて快作ですが。しまいには「雑派大魔神フィルモアで逆襲」「雑派大魔神ノートルダムで激怒」「雑派大魔神パリで逆鱗」と……まあ、実際、曲名も「The Illinois Enema Bandit」(イリノイの浣腸強盗)とか、「Bobby Brown」みたいな危険な歌詞も多いんでなんとも言えないですけどね。
 
 ザッパを文章で表現するのは凄く難しいので、お勧めの作品だけ紹介致しましょうか。
 まずは「Hot Rats」。ビートルズの「Abbey Road」をチャートの1位から引きずり下ろしたのは、キング・クリムゾンの「In The Court of The Crimson King」という話は有名ですが、そのクリムゾンを1位から下ろしたのはこの「Hot Rats」だというのは余り知られていないようであります。内容はザッパにしてはわかりやすいハイテクなジャズロックで、最高傑作にこの作品を挙げる人も多いのです。
 次に3枚組BOXセットの「Lather」。これにもザッパの魅力が存分に詰まっています。元は4枚組LDセットとしてリリースする予定だったものをレコード会社が拒否したため、3枚に分割されたもので、96年頃になってようやく元の形で発売されたものです。インストあり、オーケストラあり、ポップありと面白い内容になっています。
  
 




 


 あとこれは番外ですが、ザッパ自身が話したことをライターが文字起こしをし、もう一度本人がチェックを入れる形で執筆された自伝『フランク・ザッパ自伝』も必読です。これは値段が高いので図書館に注文するなり、どこかで見かける機会があれば読んでみてください。自伝と銘打っていますが、実際に記されているのは幼少期からマザーズ・オブ・インベンションの結成、解散までで、あとは彼の目から見た、音楽を作るため金の問題、妙ちくりんなグルーピーの話、ミュージシャンズユニオンの問題、現代音楽作曲家の存在意義、閉鎖的なクラシック音楽界やレコード業界に対する皮肉等、ユーモアたっぷりの私見と批評が楽しめます。特に本書の後半の殆どをティッパー・ゴア(「あの」ゴア副大統領の嫁)の提唱したレコード検閲機関「PMRC」との戦いに多くのページを割いており、ザッパがこの国家ぐるみの検閲行為制度に対し、どのように反論し、戦っていったのかを知る意味でも、大いに重要な本だと言えるでしょう。
 
 残したアルバムは70枚超。そして死後も遺族によて続々と出される未発表音源の数々。フランク・ザッパはその膨大な作品で音楽好事家の耳を現在も楽しませています。

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