2011年7月1日金曜日

ドラッカー 16 【エッセンシャル版】マネジメント



日本の読者へ

 私の大部の著作『マネジメント----課題・責任・実践』からもっとも重要な部分を抜粋した本書は、今日の日本にとって特に重要な意味を持つ。日本では企業も政府機関も、構造、機能、戦略に関して転換期にある。そのような転換期にあって重要なことは、変わらざるもの、すなわち基本と原則を確認することである。そして本書が論じているもの、主題としているもの、目的としているものが、それら変わらざるものである。

 事実、私のマネジメントについての集大成たる『マネジメント』は一九五〇年代、六〇年代という前回の転換期における経験から生まれた。まさにその時期に、二〇世紀のアメリカ、ヨーロッパ、日本の経済、社会、企業、マネジメントが形成された。日本を戦後の廃墟から世界第二位の経済大国に仕上げたいわゆる日本型経営が形成されたのもこの時期だった。

 私のマネジメントとの関わりは、第二次大戦中、当時の最大最強の自動車メーカーGMでの調査に始まり、アメリカの大手鉄道会社と病院チェーンへのコンサルティング、カナダの政府機関再編への協力、日本の政府機関再編への協力、日本の政府機関、企業への助言と進んでいった。

 それらの経験が私に教えたものは、第一に、マネジメントには基本とすべきものがあるということだった。

 第二に、しかし、それらの基本と原則は、それぞれの企業、政府機関、NPOの置かれた国、文化、状況に応じて適用していかなければならないということだった。英語文化と仏語文化の共存が大問題であるカナダの政府機関再編、国との関係再構築についての助言という私の仕事には役に立たなかった。同じように、歴史のあるアメリカのグローバル企業の組織構造は、たとえ同じ産業にあっても、創業間もない日本のベンチャー企業の組織の参考にはならなかった。

 そして第三に、もう一つの、しかもきわめて重要な「しかし」があった。それは、いかに余儀なく見えようとも、またいかに風潮になっていようとも、基本と原則に反するものは、例外なく時を経ず破綻するという事実だった。基本と原則は、状況に応じて適用すべきものではあっても、断じて破棄してはならないものである。

 ところが私は、当時、成功している経験豊かな経営者さえ、それらの基本と原則を十分把握していないことに気づいた。そこで私は、数年かけて、マネジメントの課題と責任と実践に関わる基本と原則を総合的に明らかにすることにした。

 実はその二〇年前、すでに私は、企業や政府機関のコンサルタントとしての経験と、二つの大学で役員を務めた経験から、同じ問題意識のもとにこの課題に取り組んでいた。その成果が、三〇ヶ国語以上に翻訳されて世界中で読まれ、今日も読まれ続けている『現代の経営』だった。それは全書というよりも入門書だった。

 しかし『マネジメント』は、初めからマネジメントについての総合書としてまとめた。事実それは、マネジメントに関わりを持ち、あるいはマネジメントに感心を持つあらゆる人たち、すなわち第一線の経営者から初心者にいたるあらゆる人たちを対象にしていた。

 その前提とする考えは、マネジメントはいまや先進社会のすべてにとって、欠くことのできない決定的機関になったというものである。さらには、あらゆる国において、社会と経済の健全さはマネジメントの健全さに左右されるというものである。そもそも国として、発展途上国は存在せず、存在するのはマネジメントが発展途上段階あるだけであるということに私が気がついたのは、ずいぶん前のことだった。

『マネジメント』が世に出た後も、無数の経営書が出た。勉強になる重要なものも少なくない。しかしそれらのうちもっともオリジナルなものでさえ、扱っているテーマはすでに『マネジメント』が明らかにしていたものである。事実、この三〇年に経済と企業が直面した課題と問題、発展させた政策と経営のほとんどは、『マネジメント』が最初に提起し論じていた。

 『マネジメント』は、世界で最初の、かつ今日にいたるも唯一のマネジメントについての総合書である。しかも私が望んだように読まれている。第一線の経営者が問題に直面したときの参考書としてであり、第一線の専門家、科学者が組織とマネジメントを知る上での教科書としてであり、ばりばりのマネージャー、若手の社員、新入社員、学生の入門書としてである。うれしいことには、企業、組織、マネジメント直接の関わりを持たない大勢の人たちが、今日の社会と経済を知るために『マネジメント』を読んでくれている。

 マネジメントの課題、責任、実践に関して本書に出てくる例示は、当然のことながら、『マネジメント』初版刊行時のものである。しかし、そのことを気にする必要はまったくない。それらの実例は、基本と原則を示すためのものであり、すでに述べたように、それらのものは変わらざるもの、変わり得ないものだからである。

 したがって読者におかれては、自らの国、経済、産業、事業がいま直面する課題は何かか、行うべき意思決定は何か、そしてそれらの課題、問題、意思決定に適用すべき基本と原則は何かを徹底して考えていっていただきたい。さらには、一人の読者、経営者、社員として、あるいは一人の知識労働者、専門家、新入社員、学生として、自らの前にある機会と挑戦は何か、自らの拠り所、指針とすべき基本と原則は何かを考えていただきたい。


 世界中の先進社会が転換期にあるなかで、日本ほど大きな転換を迫られている国はない。日本が五〇年代、六〇年代に発展させたシステムは、他のいかなる国のものよりも大きな成果をあげた。しかし、そしてまさにそのゆえに、今日そのシステムが危機に瀕している。すでに周知のように、それからの多くは放棄して新たなものを採用しなければならない。あるいは徹底的な検討のもとに再設計しなければならない。今日の経済的、社会的な行き詰まりが要求しているものがこれである。

 私は、二十一世紀の日本が、私と本書に多くのものを教えてくれた四〇年前、五〇年前の、あの革新的で創造的な優木あるリーダたちに匹敵する人たちを再び輩出していくことを祈ってやまない。そしてこの新たな旗手たちが、今日の日本が必要としているシステムと戦略と行動を生み出し活かすうえで、本書がお役に立てることを望みたい。

 本書がこの偉業に貢献できるならば、これに勝る喜びはない。それは私にとって、私自身と、体系としてのマネジメントそのものが、これまで日本と、日本の友人、日本のクライアントから与えられてきたものに対するささやかな返礼にすぎない。

 本書の編訳者である上田惇生氏は『マネジメント---課題、責任、実践』の翻訳チームの最年少のメンバーだった。日本の代表的な経済団体である経団連で広報部長を務められた後、ものづくり産業の担い手たるテクノロジスト育成のための四年制の私立大学、ものつくり大学の設立に参画され、現在同大学で教授を務めておられる。

 しかも氏は、忙しい仕事の合間を縫って、ずっと私の日本における助言者、編集者、翻訳者の役割を果たしてきてくれた。実際のところ、氏は私の著作のほとんどすべてを訳してくれている。二度三度と訳し直してくれたものもある。本書もその一つである。私は私の謝意と友情の深さを表す言葉を知らない。私が読者の各位とともに言えるのは、本当にありがとうという言葉だけである。

 本書を著述家が持ちうる最高の友人、最高の編集者、最高の翻訳家たる上田先生に捧げることを許していただきたい。


二〇〇一年一月

カリフォルニア州クレアモントにて
        ピーター・F・ドラッカー


まえがき-----なぜ組織が必要なのか


 われわれの社会は、信じられないほど短い間に組織社会になった。しかも多元的な社会になった。生産、医療、年金、福祉、教育、科学、環境にいたるまで、主な問題は、個人と家族ではなく組織の手にゆだねられた。この変化に気づいたとき。「くたばれ組織」との声があがったのも無理はない。だが、この反応はまちがっていた。なぜなら、自立した存在として機能し成果ををあげる組織に代わるものは、自由ではなく全体主義だからである。

 社会には、組織が供給する財とサービスなしにやっていく意思も能力もない。しかも、組織の破壊者たる現代のラッダイト(産業革命時の機械破壊運動者)のなかで、組織を必要としているのは、声の大きな高学歴の若者である。知識を通じて生活の資を稼ぎ、成果をあげて社会に貢献する機会が豊富に存在するのは、組織だけだからである。

組織をして高度の成果をあげさせることが、自由と尊厳を守る唯一の方策である。その組織に成果をあげさせるものがマネジメントであり、マネージャーの力である。成果をあげる責任あるマネジメントこそ全体主義に代わるものであり、われわれを全体主義から守る唯一の手立てである。

 経営者のほとんどがもっぱらマネジメントの仕事を扱っている。それらはマネジメントを内から見ている。これに対し、本書はマネジメントの使命、目的、役割から入る。マネジメントを外から見、その課題にいかなる次元があり、それぞれの次元に何が要求されるかを見る。しかる後に、マネジメントのための組織と仕事を見る。さらにトップマネジメントと戦略を見る。

 マネジメントは、以前にも増して大きな成果をあげなくてはならない。しかも、あるゆる分野で成果をあげなくてはならない。個々の組織の存続や繁栄よりもはるかに多くのことが、その成果いかんにかかっている。組織に成果をあげさせられるマネジメントこそ、全体主義に代わる唯一の存在だからである。

 本書の動機と目的は、今日と明日のマネジメントをして成果をあげさせられることにある。

一九七三年春

カリフォルニア州クレアモントにて
        ピーター・F・ドラッカー

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目次

  •  
    • 日本の読者へ
    • まえがき
  • part1 マネジメントの使命
    •  
      • 1 マネジメントの役割
    • 第1章 企業の成果
      • 2 企業とは何か
      • 3 事業は何か
      • 4 事業の目標
      • 5 戦略計画
    • 第2章 公的機関の成果
      • 6 多元社会の到来
      • 7 公的機関不振の原因
      • 8 公的機関成功の条件
    • 第3章 仕事と人間
      • 9 新しい現実
      • 10 仕事と労働
      • 11 仕事の生産性
      • 12 人と労働のマネジメント
      • 13 責任と保障
      • 14 「人は最大の資産である」
    • 第4章 社会的責任
      • 15 マネジメントと社会
      • 16 社会的影響と社会の問題
      • 17 社会的責任の限界
      • 18 企業と政府
      • 19 プロフェッショナルの倫理---知りながら害をなすな
  • part2 マネジメントの方法
    • 20 マネジメントの必要性
    • 第5章 マネージャー
      • 21 マネージャーとは何か
      • 22 マネージャーの仕事
      • 23 マネジメント開発
      • 24 自己管理による目標管理
      • 25 ミドルマネジメント
      • 26 組織の精神
    • 第6章 マネジメントの技能
      • 27 意思決定
      • 28 コミュニケーション
      • 29 管理
      • 30 経営科学
    • 第7章 マネジメントの組織
      • 31 新しいニーズ
      • 32 組織の基本単位
      • 33 組織の条件
      • 34 五つの組織構造
      • 35 組織構造ついての結論
  • part3 マネジメントの戦略
    •  
      • 36 ドイツ銀行物語
    • 第8章 トップマネジメント
      • 37 トップマネジメントの役割
      • 37 トップマネジメントの構造
      • 37 取締役会
    • 第9章 マネジメントの戦略
      • 38 規模のマネジメント
      • 39 多角化のマネジメント
      • 40 グローバル化のマネジメント
      • 41 多角化のマネジメント
      • 42 グローバル化のマネジメント
      • 43 成長のマネジメント
      • 44 イノベーション
      • 45 マネジメントの正統性
      • 結論

    • 付章 マネジメントのパラダイムが変わった
      • 編訳者あとがき
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