コーヒーを出しながら管理人の侑子さんが
「すっかり寒くなってしまって、キャンプをする人もぐっと少なくなってしまったのでね・・・」
と10月26日にキャンプ場を閉めたわけをすまなそうに話すのでありました。
「それにね、たくさんのカメ虫がでてきてね。その臭いに閉口したのもあるんですよ・・・」
私は別に予約をしてきたわけでもないので、そんなに済まなそうにしなくてもいいのにと思いながらも、「カメ虫」というキーワードで急速に別の世界に引っ張り込まれるのを感じるのでありました。
森敦著 月山・鳥海山 文春文庫 p26・p27から
境内に出て花に水をやる寺のじさまと、思いだしてはそんな話をしていましたが、なんともいえぬ好天のつづく澄み切った空に、わたしはまるでゴマを散らしたような黒い無数の点が、高く低く団々と階層をつくって、飛び交っているのに気がつきました。しかも、そうした一団が唸りを立ててわたしたちのまわりを旋回し、額といわず肩といわず胸といわず、ペタリ、ペタリと貼りついてくるのです。あの枯葉色の小さな楯のような形をしたカメ虫で、それがただ貼りついてくるだけではなんてこともないのですが、いずれもやがて我慢のしようもない嫌な臭いを漂わすのであります。
「しェー、飛んで来たもんだの」寺のじさまも手びしゃくの手で、貼りついたカメ虫を払い、ポロリと落ちて赤い腹を見せながら脚を動かしているのを踏みつけ踏みつけ、
「わが身を守るためなんでろかし、なしてこげだ臭いを出すんでろ。臭いせえしねば、せっかく寺さ来たもんだし、殺すこともねえどもの」
「寺に?」
「ンだ。いままで渓底の草木の精を吸うていたんども、いよいよ寺さ冬ごもりに来たんだて」
「冬ごもりに・・・・・」
「ンだ。もとは寺さも坊さまだ、弟子だ、先達の山伏だと、こうで(沢山)いたんださけ、総出で叩きつぶしまわったんどもや」
いまは手のほどこしようがないというこも、寺のじさまはむかしを偲ばせるようで、なるほど寺はカメ虫だらけになって来ました。しかし、それはどこに潜んだのか見えなくなり、雨の日がつづくようになったのです。
秋も深まり氷雨が降るころになると、どこからともなく大量のカメ虫がでてきて檜枝岐村の人家に入ってくるのだそうです。たまたま私は上記引用の「月山」を再読しているときであり、カメ虫がでてくるくだりを思いだしたのであります。
今秋の予定では月山の紅葉を見にいく予定でありました。だから少しでも出羽三山のことを知っておこうと思い「森敦著 月山・鳥海山」を読み進めていたのでありました。
七入オートキャンプ場の管理棟の居間にあがりストーブをつけますと、冬眠のために管理棟の隙間に潜り込んでいたカメ虫がその暖かさに誘われてゾロゾロと出てきます。
春になれば冬眠から醒めいずことなく飛び立っていくカメ虫ですが、潰せばかなり強烈な悪臭を周囲に放ちます。それが一匹や二匹ではなく、かなり大量に出現しますから始末に負えません。
聞くところによれば、檜枝岐村の中心からかなり上に登った地点にある七入オートキャンプ場にはカメ虫は出現しなかったようであります。これも地球温暖化のせいなのでしょうか。なんでもかんでも地球温暖化のせいにするのはあまり好きではないのですが、一応そういうことにでもしておきましょう。
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