まえがき
本書は企業を三つの次元でとらえた。
第一に、自らの外部、すなわち顧客のために成果を生み出す経済的な機関としてとらえた。第二に、人を雇用し、育成し、報酬を与え、彼らを生産的な存在とするための機関、したがって統治能力と価値体系をもち、権限と責任の関係を規定する社会的機関としてとらえた。第三に、社会とコミュニティに根ざすがゆえに公益を考えるべき公的機関としてとらえた。
また本書は、本書の出版当時(一九五四年)には言葉さえほとんどなかった「企業の社会的責任」について論じた。
こうして本書は、今日われわれがマネージメントの体系としているものを生み出した。それに偶然でも運でもなかった。それこそ本書を書いた目的であり、意図だった。
本書を書いたとき、私はすでに一〇年以上コンサルタントとして成功していた。だが私は、もともと企業とそのマネージメントへの関心からスタートしたのではなかった。一応、若い頃にはドイツで一年弱、イギリスで三年ばかり金融機関で働いたことがあった。しかしその後、筆をとり、行政と政治を教えていた。マネージメントなるものに関わりをもつようになったこと自体が、ほとんど偶然によるものだった。
一九四二年、私は『産業人の未来』を発表した。その中で私は、かって家族とコミュニティが担っていた社会的な課題のきわめて多くが、やがて組織、特に企業によって果たされるようになることを論じた。$E3��の著作は、世界最大のメーカーであるGM(ゼネラルモーターズ)の首脳陣の目にとまり、一九四三年の秋には同社のマネジメントについて調査研究するように依頼された。この調査研究から誕生したものが、一九四六年に発表した『企業とは何か』(邦訳旧題『会社という概念』)だった。
GMでの仕事は面白かったが、ストレスの溜まるものでもあった。研究の準備をしようにも参考するものがなく、企業とマネジメントについて書かれた書物はごくわずかしかなかった。
そのごくわずかのものでさえ、役には立たなかった。それらのものは、いずれも企業活動の一つの側面、しかもそれだけが独立して存在するかのように、特定の側面しか取り上げていなかった。それらは、身体の一つの関節についてだけ書いている解剖学の本を思わせた。骨格や筋肉はもちろん、腕についてさえ述べていなかった。
しかも、企業のマネジメントに関わる側面については、まったく何の研究もなかった。
私は、マネジメントや経営管理者の仕事が興味深い存在になっているのは、それが生きた存在だからだと考えた。事実、GMでの調査を始めて直ちに、マネジメントするということは、第一に成果をあげることについて考え、第二に企業の中で共通の課題に取り組むべき人たちを組織することについて考え、第三に社会的な問題、すなわち社会的なインパクトと責任について考えることであることを知った。しかしそれらのことについては、いかなる文献も見つからなかった。それら三者間の関係についてはなおのこと、何も見つからなかった。
私はその調査研究をまとめた後も、かなり長い間GMのコンサルタントをつとめた。その頃、シアーズ・ローバック、チェサピーク&オハイオ鉄道、GE(ゼネラル・エリクトリック)からもコンサルタントを頼まれるようになった。しかし、私はいつも同じ状況に直面した。すなわち、マネジメントの仕事、機能、課題についての研究、理念、知識に関する文献はほとんど存在せず、いくつかの断片と専門的な論文があるにすぎなかった。
そこで私は、じっくり腰を下ろしてこの暗黒の大陸たるマネジメントの世界の地図を描き、欠けているために新たに生み出さなければならないものを明らかにし、すべてを組織的、かつ体系的に一冊の本にまとめようと決心した。
それまでのコンサルタントの仕事で、私は大勢の若い優秀な人たち、その上のミドルの人たち、あるいは、さらに大きな仕事を任されている人たちに会っていた。彼らは、自分たちの先輩である第二次世界大戦前に昇進していた人たちとは違い、自らが経営管理者であることを自覚していた。彼らは体系的な知識を必要としていた。すなわち、コンセプト、原則、手法を必要としていた。しかも彼らは、それらの何も手にしていないことを知っていた。
私が本書を書いたのは、そのような人たちのためだった。事実、この『現代の経営』をベストセラーにしてくれたのは彼らだった。彼らは、経営管理者であることを、単なる地位から仕事、機能、責任に変えた人たちだった。
本書はアメリカだけではなく、ヨーロッパ、ラテンアメリカ、日本で、直ちに大きな成功を収めた。特に日本では、経済発展の基礎になったとしてくれた。
私のマネジメントに関する世界最初の本『創造する経営者』(一九六四年)であり、エグゼクティブとしてお自らのマネジメントについて説いた『経営者の条件』(一九六六年)である。また『マネジメント』(一九七三年)は、エグゼクティブの体系的入門書としてだけでなく、大学の教科書としても書いた。同書は、本書『現代の経営』が読みやすい入門書を意図したのに対し、総括的な決定版を意図した。
本書はいまなお、経営学部の学生、経営管理者を目指す人たち、すでに経営管理者になっている人たちが必読書としている唯一のものである。ある大銀行の会長は役員たちに対し、「マネジメントについて一冊だけ読むとしたら『現代の経営』にしなさい」と繰り返しいってくれている。
本書の成功の原因は、その総合性と読みやすさのバランスにあると思う。一つひとつの章は短い。しかし、いずれの章も基本的なことを提示している。それは、本書執筆の意図の当然の帰結である。私は、自分がコンサルタントをしていた企業の経営管理者に対し、彼らが今日の仕事に必要としているもののすべてを提供しようとした。しかも、そのために使う材料は、取り組みやすく、読みやすく、かつ忙しい人たちが割ける時間に合わせたものにしようとした。
本書のあとに書かれ、出版された経営書が多数あるにもかかわらず、本書が長年にわたってベストセラーとして広く読まれているの理由は、このバランスにあると思う。本書はそのゆえに、企業や政府機関やその他の組織の経営管理者と、経営管理者を人たちの愛読書となっている。
私は本書が、今後も長い間、新しい世代の学生や、意欲に燃える若い経営管理者、経験あるエグゼクティブの方々にとって、愛読書となり続けてくれることを期待している。
カリフォルニア州クレアモントにて
ピーター・F・ドラッカー
目次
- 序論 マネジメントの本質
- まえがき
- 第1章 マネジメントの役割
- 事業に息を吹き込む存在
- 経済発展を支える鍵
- 第2章 マネジメントの仕事
- マネジメントへの無理解
- 経済的な成果をあげる
- マネジメントの第1の機能
- 創造的な活動としてのマネジメント
- マネジメントの第2の機能
- マネジメントの第3の機能
- 現在と未来のマネジメント
- マネジメントの多目的性
- 第3章 マネジメントの挑戦
- 新たな産業革命
- オートメーションとは何か
- オートメーションと人間
- マネジメントに要求されるもの
- 第Ⅰ部 事業のマネジメント
- 第4章 $E3��アーズ物語
- 顧客にとっての価値はなにか
- 近代企業の成長の要因
- 数々のイノベーション
- 新しい問題と新しい機会
- 第5章 事業とは何か
- 人が事業を創造する
- 企業の目的
- 企業家的な二つの機能|マーケッティングとイノベーション
- 経済成長の機関としての企業
- 富を生み出す資源の生産的な利用
- 生産性のコンセプト
- 利益の機能
- 第6章 われわれの事業は何か
- 正しい答えはわかりきったものではない
- われわれの事業は何かがもっとも重要
- 顧客は誰か
- 顧客にとっての価値は何か
- われわれの事業は何になるか
- われわれの事業は何であるべきか
- 目標設定の重要性
- 第7章 事業の目標
- 「唯一の正しい目標」の誤り
- いかにして目標を設定するか
- 市場地位|マーケッティングに関わる目標
- イノベーション〫関わる目標
- 生産性と付加価値に関わる目標
- 資源と資金に関わる目標
- どれだけの利益が必要か
- 利益を測定する尺度は何か
- その他の重要な領域に関わる目標
- 目標の期間設定
- 目標間のバランス
- 第8章 明日を予期するための手法
- 明日を予期することの重要性
- 景気循環を迂回する
- 意志決定のための三つの手法
- 経営管理者の育成が鍵
- 第9章 生産の原理
- 生産能力は決定的要因
- 三つの生産システム
- 個別生産
- 二つの大量生産
- プロセス生産
- 生産部門に要求すべきこと
- 生産システムがマネジメントに要求するもの
- オートメーション化|革命か漸進か
- 第4章 $E3��アーズ物語
- 第Ⅱ部 経営管理者のマネジメント
- 第10章 フォード物語
- 経営管理者は最も希少な資源
- ヘンリーフォードの失敗
- マネジメントの構築
- 経営管理者をマネジメントすることの意味
- 欬11章 自己管理による目標管理
- 方向づけを誤る要因
- 専門家した仕事にひそむ危険性
- 階層によるマネジメントの違い
- 何を目標とすべきか
- キャンペーンによるマネジメントは失敗する
- 自己管理によるマネジメントの変革
- 報告と手続きに支配されるな
- マネジメントの哲学
- 第12章 経営管理者は何をなすべきか
- 経営管理者の仕事の範囲
- 経営管理者の責任の範囲
- 経営管理者の権限
- 経営管理者とその上司
- 第13章 組織の文化
- 凡人を非凡にする
- 五つの行動規範
- 無難であることの危険
- 評価の必要性
- 報奨と動機つけとしての報酬
- 昇進を過大視する弊害
- 適切な昇進制度
- マネジメントの理念
- マネジメントの適正
- リーダーシップとは何か
- 第14章 CEOと取締役会
- ボトルネックはボトルトップにある
- CEOの仕事の混乱ぶり
- CEOは一人という迷信
- CEO一人体制の危険
- CEOチームの組織化
- 取締役会
- 第15章 経営管理者の育成
- 三つの責任
- 経営管理者の育成にあらざるもの
- 経営管理者の育成の原則
- 経営管理者の育成の方法
- 第10章 フォード物語
0 件のコメント:
コメントを投稿