2011年5月23日月曜日

大草原の小さな家 Going West(西部への旅)


 カンザスという所は、どこまでもつづく、山も谷もないたいらな土地で、たけの高い草が一面にはえ、風にそよいでいました。何日も何日も、一行はカンザスの旅をつづけ、見えるものは風に波立つ草と、とてつもなく大きな空ばかりでした。このとほうもなく広い平地では、地平線はまるくカーブをえがいて見え、四方を見まわすと、まわりじゅう空にかこまれたまるい輪のまんまんなかに、馬車がいるように思えるのでした。

 一日じゅう、ペットとパディが、足をはやめたり、ゆるめたり、またはやめたりして、前へ前へとすすんでいくのに、いつまでも、この輪のまんなかから一歩もでられないのでした。太陽がしずんでもまだ、この輪は馬車のまわりをかこんでいて、そのまるい地平線のあたりがうす赤くなっています。やがて、少しずつ、地面が黒ずんできました。草を吹く風が、さびしい音をたてます。キャンプの火も、このとほうもない広さのなかでは、とてもちっぽけで、たよりなげです。でも、空にかかった星は、ローラが手をのばせばすぐにとどきそうなほど近く、キラキラかがやいていました。

 つぎの日も、おなじ地面、おなじ空、そして、地平線はあいかわらずまんまるでした。ローラとメアリーは、そのどれにもあきあきしていました。することは何もかも前の日とおなじで、見るものも何ひとつかわらないのです。馬車のうしろのベッドをととのえて、灰色の毛布をきちんとかけ、その上にローラとメアリーはすわるのです。馬車にかけた幌の両がわはまきあげてしっかりむすびつけ、草原をわたってくる風が吹き込むようにしてあります。風は、ローラのまっすぐな茶色の髪と、メアリーの金色のまき毛を、四方八方に吹き飛ばし、つよい日ざしは、まぶたに痛いほどでした。

 ときどき、大きな野ウサギが、風にうねっている草の上を、ぴょん、ぴょん、大きくはねて逃げていきました。ブルドックのジャックは、でも、ふりむきもしません。かわいそうに、ジャックもつかれていたのです。それに、こんなに長く旅をしたので、足がいたいのです。馬車はガタゴト動きつづけ、幌の屋根は、風にバタバタ鳴っていました。二本の車輪のあとが、馬車のうしろにかすかに残っています。いつもおなじように。

 とうさんの背中は、まるくかがまっていました。手にもった手綱はたるんだままで、長い茶色のひげが風に吹きまくられています。かあさんは、手をひざにくんで、きちんと背をのばしたまま、しずかにすわっています。キャリーは、服や毛布の包みの間につくった寝場所で、おとなしく寝ていました。
「アーア!」メアリーがあくびをし、ローラはいいました。「かあさん、馬車からおりて、馬車のあとについてかけたいの。足がだるいんだもの」
「いけませんよ、ローラ」かあさんはいいました。
「もうすぐキャンプするんじゃないの?」ローラは、またききます。馬車のかげのきれいな草の上にすわって、昼ごはんを食べてから、とても長い時間がたったような気がするのです。
 とうさんが返事をしました。「まだだよ。キャンプをするには、まだ早すぎるんだ」
「いますぐ、キャンプしたいのよ。とってもくたびれたんだもの」ローラはいいます。

 するとかあさんがいいました。「ローラ」たったそれだけ。でも、それは、ローラわがままいってはいけません、ということだったのです。ですから、ローラも、それきり、口にだしては何もいいませんでしたが、すなおな気持ちにはなれませんでした。じっとすわったまま、いろいろなことに腹をたてつづけています。

 足はいたくてたまらないし、風はあいかわらず髪の毛をめちゃくちゃに吹きまくります。草は波うち、馬車はガタガタ動き、長い長い間、あたりの景色も、ちっともかわりはしませんでした。
「クリークか川があるようだ」とうさんがいいました。「おまえたち、むこうの木立が見えるかい?」
ローラは立ちあがって、弓形の幌枠につかまって背伸びをしました。ずうっとむこうに、ひくい黒っぽいしみみたいなものが見えます。
「あれが木立だよ」とうさんはいいます。「影のかたちでわかるんだ。この土地では、木があるってことは水があることだよ。今夜はあそこでキャンプをしよう」

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